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神戸地方裁判所 平成5年(ワ)950号 判決 1994年7月15日

原告

坂本亜希枝

ほか二名

被告

田中真紀

主文

一  被告は、原告に対し、金七三九万七三七八円及びこれに対する平成二年九月一七日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

二  原告のその余の請求を棄却する。

三  訴訟費用はこれを一〇分し、その三を原告の負担とし、その余を被告の負担とする。

四  この判決の第一項は仮に執行することができる。

事実及び理由

第一請求

被告は、原告に対し、一〇七六万四九六五円及びこれに対する平成二年九月一七日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

第二事案の概要

本件は、交通事故により受傷した原告が、自賠法三条により、損害賠償を請求した事案である。

一  争いのない事実及び明白な事実

1  本件事故の発生

(一) 日時 平成二年九月一七日午後二時三五分ころ

(二) 場所 神戸市垂水区舞子台八丁目七番八号先市道舞子多聞線横断歩道上

(三) 加害車 被告運転の普通貨物自動車(軽四)

(四) 事故状況

右横断歩道上を横断中の原告(本件事故当時六歳)に、被告が運転中の加害車を衝突させて、原告をはね飛ばしたものである。

(五) 原告の障害の内容及び治療の経過

(1) 傷害名 左大腿骨頸部骨折、頭部外傷、右下腿、左下肢擦過創

(2) 治療状況

ア 平成二年九月一七日から同年一〇月一九日まで三三日間舞子台病院に入院

イ 同年一〇月二〇日から平成四年四月一三日まで同病院に通院(実通院日数一四日)

(3) 後遺症の程度及び等級

平成四年四月一三日(満八歳)に症状固定し、左足の短縮は自賠法施行令後遺障害別等級表一三級九号に、左大腿骨の骨頭壊死による左股関節の機能傷害(可動制限)は、同一二級一二号に各該当し、併合して同一一級とされた。

2  責任原因

被告は、加害車の運行供用者であるから、自賠法三条により原告の本件事故による損害を賠償する責任がある。

3  損益相殺

原告は、本件事故に関し、自賠責保険に被害者請求して同保険金として三八二万二九七〇円を受領した。

二  争点

1  原告の損害

2  過失相殺

(一) 被告は、本件事故直前、加害車を運転して市道舞子多聞線を時速五〇キロメートル位の速度で南進し、本件事故現場交差点の手前で対面信号を確認したところ、青色の表示だつたのでそのまま進行したところ、約一六メートル前方に赤信号で横断歩道を右側から左側に徒歩で横断中の原告に気付き、ハンドルを左に切つて衝突を回避しようとしたが、原告がそのまま前進してきたため、これを回避しきれずに衝突したものである。従つて、原告にも赤信号を無視して横断していた重大な過失があり、四割の過失相殺が相当である。

(二) 原告は、青信号を確認した上で本件横断歩道上を横断し始め、途中黄信号に気付いて急いで渡ろうと走り出したところ、加害車に衝突されたものである。原告に何ら落度はなく、被告が前方注視を十分尽くしておれば、容易に原告を発見できたのであるから、被告の過失相殺の主張は認められない。

第三争点に対する判断

一  損害

1  治療費 一七万〇六三〇円

甲四の1ないし6によれば、原告は、本件事故による治療費として舞子台病院に一七万〇六三〇円を支払つたことが認められる。

2  付添費 一四万八五〇〇円

原告法定代理人坂本雅民本人尋問の結果によれば、原告の母坂本ひとみが原告の舞子台病院入院中の三三日間、原告に付き添つたことが認められる。原告の前記傷害の内容、程度及び年齢等を考慮すると、右入院期間中、原告の近親者である原告の母の付添費用として一日当たり四五〇〇円、合計一四万八五〇〇円の付添費は、相当の損害と認められる。

3  入院雑費 三万九六〇〇円

前記のとおり、原告は本件事故により三三日間舞子台病院に入院しているところ、右入院中、雑費として少なくとも原告主張の一日当たり一二〇〇円が必要であつたものと推認される。従つて、その間の入院雑費は三万九六〇〇円を要したものと認められる。

4  通院交通費 一万五一二〇円

前記のとおり、原告は、本件事故により舞子台病院に一四日間通院しているところ、原告法定代理人坂本雅民本人尋問の結果によれば、原告は、通院の際、バス利用の場合、乗換が必要であるため、費用が同程度ということもあつてバスでなくタクシーを利用し、その往復のタクシー代が一〇八〇円であつたことが認められる。右によれば、右タクシー代合計一万五一二〇円は、相当な損害といえる。

5  医師等謝礼代(請求二三万円) 六万円

甲一〇、原告法定代理人坂本雅民本人尋問の結果によれば、原告の入通院による治療等の謝礼として、原告は、担当の司馬医師に五回にわたり合計二一万円、看護婦に対し二回にわたり合計二万円をそれぞれ渡したことが認められる。

社会通念上相当な謝礼であれば、交通事故との相当因果関係が認められるところ、原告の傷害の内容、程度、入通院の期間、程度等諸般の事情を考えると、本件事故における相当な謝礼は、六万円程度であつたと認めるのが相当である。

6  文書料 八〇〇円

弁論の全趣旨によれば、原告は自賠責保険請求の際の文書料として八〇〇円を支出したことが認められる。右も相当な損害といえる。

7  逸失利益 七七五万三二八五円

原告の前記後遺障害の内容、程度及び固定時期等からすると、原告は、症状が固定した後の満一八歳から就労が可能と推認される満六七歳までの四九年間、労働能力を二〇パーセント喪失したものと認めるのが相当であり、原告の収入としては、原告主張のとおり平成四年度賃金センサス企業規模計一八歳女子労働者平均賃金を採ることとする。

計算式

2,023,300×0.2×19.160=7,753,285

8  慰謝料(請求五二六万円) 五〇〇万円

原告の本件受傷内容、治療経過、入通院期間、後遺障害の内容程度、原告の年齢等本件に現れた諸事情を総合して考察すると、原告の本件慰謝料は五〇〇万円と認めるのが相当である。

二  過失相殺

1  甲一、七、乙一、二、証人藤原範明の証言、原告法定代理人坂本雅民及び被告各本人尋問の結果、弁論の全趣旨によれば、次の事実が認められる。

(一) 本件事故現場付近の状況は、別紙図面記載のとおりである。本件事故現場である東西の本件横断歩道の信号は、本件事故当時、青から黄に変わつて四秒後に赤に変わり、その二秒後に南北の市道舞子多聞線の車両用信号が赤から青に変わるサイクルになつていた。なお、本件事故の約三月後から、本件横断歩道の信号は、青から青点滅に変わつて五秒後に赤に変わり、その九秒後に市道舞子多聞線の車両用信号が赤から青に変わるサイクルに変更になつた。

(二) 被告は、本件事故直前、制限速度の時速約五〇キロメートルの速度で市道舞子多聞線の内側を南進し、本件交差点のかなり手前で、対面信号が赤で、対向車が停車しているのを見て、そのまま進行し、その後対面信号が青に変わり、その一、二秒後に本件衝突地点の四五、六メートル位手前まで進行したが、対向車が停車したままで発進しないため、おかしいと思つて、軽くブレーキを踏み、本件交差点付近を確認したが、左右に進行している自動車や人を見かけなかつたため、そのまま進行したところ、本件交差点の南側に設置されていた本件横断歩道を西から東に早足で横断している原告を約一六・三メートル前方の真正面に発見し、ブレーキをかけ、少し左にハンドルを切つたけれども、回避できず、原告と衝突した。

(三) 原告は、本件事故直前、小雨で傘を持ち、本件横断歩道を西から東に向けて横断しようとして、その前に歩行者用対面信号が青であることを確認したが、その後数秒間は同信号を確認しなかつたため、実際に横断歩道に入る地点で同信号が黄にかわつたことに気付かず、少し進んで同信号が黄に変わつていることに気付いたが、左右を確認せず、少し前進し、車道中央帯の手前で同信号が赤に変わつたことを確認したが、横断できると考え、左右を確認せず更に前進し、同中央帯から約二・五メートル進んだ地点で加害車と衝突した。

2  原告は、歩行者用対面信号が青であることを確認して横断を開始した旨主張し、乙二の記載及び原告法定代理人坂本雅民本人尋問の結果中には、右に沿う部分がある。

しかしながら原告が横断歩道に入る前のどの地点で右信号を確認したかは明確ではなく、証人藤原範明の証言によれば、タクシーの運転者である藤原範明は、市道舞子多聞線の内側車線を北進し、本件事故現場交差点の車両用対面信号が赤であつたため、本件交差点の手前で三台目の位置に停車したところ、対面信号が青に変わつた後も、先行車が停止したままでなかなか発進しなかつたので、何があつたのかとじつと見ていたところ、車道中央帯を越えた当たりで原告が西から東に横断しているのを発見し、少し進んだ地点で市道舞子多聞線を南進してきた加害車と衝突したのを見たことが認められ、右は被告の供述とも合致する。

ところで、東西の本件歩行者用の信号が黄に変わつて四秒後に、同信号は赤になり、その二秒後に、市道舞子多聞線の車両用信号が赤から青に変わることは前記のとおりであるが、原告は、小雨で傘を持ち、六歳の児童であつたとはいえ、早足であつたのであるから、時速三・六キロメートルの速度すなわち、一秒で一メートル程度は前進したはずである(歩行者の速度は、経験則上、通常人が時速四キロメートル、幼児・老人が時速三・五キロメートル位といわれている。)から、歩行者用対面信号が青で本件横断歩道の横断を開始すれば、前記車両用信号が青になる六秒後には約六・三メートルまでの車道中央帯直前に達しているはずであるのに、前記認定のとおり同車両用信号が青に変わつたとき、車道中央帯に達していない状況である(なお、前記のとおり、原告も車道中央帯に達する前に歩行者用信号が赤になつたことは認めている。)から、原告が横断を開始した当時、右歩行者用信号は黄に変わつていたというべきである。従つて、前記原告主張に沿う部分は、採用できない。

3  前記認定によれば、被告は、対面の車両用信号が青であることを確認して本件交差点に進入したものであるが、右進入は、青信号に変わつた直後であるうえ、青信号が変わつた後も対向車が発進しなかつたことを不思議に思つていたのであるから、なおさら前方左右の注視を十分に尽くすべきであり、そうしておれば原告を発見でき、本件事故の発生を回避できたはずであるから、被告の過失は大きいといわざるをえないが、原告も、本件横断歩道を開始した時点では、気付かなかつたとはいえ対面の歩行者用信号が黄になつていたもので、途中同信号が黄及び赤に変わつたことに気付いたのに、左右を確認することなく、横断を続けたもので、右も本件事故の一因といわざるをえず、原告の当時の年齢その他諸般の諸事情を総合して考えると、原告の過失は二割程度と見るのが相当である。

従つて、原告の前記損害額から二割を過失相殺すべきで、同過失相殺後に原告が被告に請求できる本件損害は、一〇五五万〇三四八円となる。

三  損害の填補

原告は、本件事故に関し、自賠責保険に被害者請求して同保険金として三八二万二九七〇円を受領したことは前記のとおりであるから、これを控除すると六七二万七三七八円となる。

四  弁護士費用(請求九〇万円) 六七万円

本件事案の内容、審理経過及び認容額等に照らすと、本件事故と相当因果関係があるとして賠償を求め得る弁護士費用の額は、六七万円と認めるのが相当である。

五  結論

以上の次第で、原告の本訴請求は、被告に対し、七三九万七三七八円及びこれに対する不法行為の日である平成二年九月一七日から支払済みまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払を求める限度で理由があるからこれを認容し、その余は失当として棄却することとし、主文のとおり判決する。

(裁判官 横田勝年)

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